おうちで映画時間。

アマプラなどで見た映画の感想を書いています。

映画感想『フェイブルマンズ』サミーの手の中でカメラは止まらない。

 

『フェイブルマンズ』2023年

 

幼い頃に初めて見た映画を忘れることができず、

幼いサミーは父親のカメラで初めての『映画』を撮る。

成長しすっかり映画に魅了されたサミーは映画を作り続けるが、

ある日、フィルムの中の母に違和感を覚え…。

 

小さい頃に出会ったものの中で強烈に覚えているものってありますよね。

幼い頃に大好きになって、大人になってもずっとずっと大事なままなもの。

私にとって、それは『お芝居』なのですが、

このフェイブルマンズに出てくるサミーにとっては『映画』でした。

 

初めて見た映画に衝撃を受けて、脳裏からずっと映画のシーンが離れなくて。

母親のすすめで初めてカメラで映像を撮る。そして母に褒められる。

こういう成功体験って、きっと子どもの中では大きい出来事なんだと思う。

映画に夢中になって、カメラで映画を撮り続けるサミー。

それはオリジナルの脚本だったり、ときにはホームビデオだったり。

サミーの中で『カメラを回す』という行為はもはや自分の一部になっていて。

それくらい夢中になれるなにかがあるって素敵なことだなぁ、と思った。

 

これってサミーが将来映画監督になって活躍するサクセス物語なのかな?

と思ったりもしたわけですが…、全然違いました!!

キャンプに行ったときのホームビデオを編集している最中、

サミーは違和感を見つけてしまうんです。

そのフィルムには、母と父の友人が仲良く手を繋いだりしている場面が映っていて…。

思春期のサミーはショックを受けてしまいます。

母への態度もおかしくなり、仲が良かった父の友人への態度も変に。

楽しく暮らしていた一家が、だんだんと不穏な雰囲気になっていき、

ついには、母は父より、父の友人を取ることを決意してしまう。離婚です。

ばらばらになる家族。泣いて抗議するサミーの妹たち。

サミーはというと、そんな様子をじっとカメラで撮影していて…。

ホラーを感じた瞬間でした。

でもサミーにとってはそれが当然の行動なんですよね。

だってカメラがなによりも大事だから。

 

サミーは言い方がアレですが、ちょっと変わった子だと思いました。

だけれど、その『変わってる』部分が『才能』で。

映画の道に進みたい、という夢を追って生きていきます。

なにかに夢中になるって、楽しいこともあるけれどたいへんなこともいっぱいで。

『楽しい』だけじゃ乗り越えられないものもある。

だけど、きっと『好き』という気持ちがあるから、

エンドロールが流れた後も、サミーはずっと変わらず映画を撮り続けていくんだろうなぁ。

 

映画のエピローグ部分でサミーはとある監督にこんなようなことを言われます。

「地平線が上と下にあるとき面白い画になり、真ん中にあるときつまらない画になる」。

これは単純に画面構図のアドバイスとも思えるし、

人生のバイオリズム的なもののことにも思えました。

 

平坦な人生は退屈でつまらない。

調子がいいとき、調子が悪いとき、そういうときにドラマが生まれる。

だからおもしろい。

そんな風に聞こえました。

 

フェイブルマンズ。

サミーがカメラを通して見たフェイブルマン一家の話。

そして、各年代のサム・フェイブルマンのお話、だったのかな。

 

なんだか、映画を大切に見よう、と思えた作品でした。

 

 

映画感想『パディントン』コミカルで優しい小グマと一家。

 

パディントン』2016年

 

かつてペルーの地を訪れた探検家に会うため、遠く離れたロンドンへとやってきた子グマ。

彼はそこでとある一家と出会い、家へと迎え入れられる。

パディントンと名付けられた子グマは、人間の一家と暮らすがトラブル続き。

そんな中、パディントンを狙う謎の女性が現われて…。

 

ちょっと元気が出ないな。明るい気分になりたいな。

そんなときにぴったりの映画でした。

 

大好きなおじさんおばさんと別れて、遠いロンドンにひとりでやってきた子グマ。

昔にとある探検家から告げられた「ロンドンに来たら歓迎するよ」という言葉を信じて。

だけれど現実は厳しくて、誰も子グマに見向きもしない。

そんな中で唯一声を掛けてくれたのがブラウン一家でした。

一晩だけ、が、探検家を探すまで、になり、そのうちかけがえのない家族になっていく。

そんな過程がいろいろなトラブルとともに描かれていました。

 

コメディ要素たっぷり、ほっこりするエピソードもあり、

そして大迫力!?なアクションシーンもあり、見応えたっぷりな映画でした!

パディントンもブラウン一家も個性がすごくて見ていて笑顔になっちゃいます。

ブラウン家のお隣さんがちょっと意地悪なんだけど憎めない感じで好きだなぁ。

全体的にアニメ映画を実写で見ている感じ。コミカルでおもしろいです。

ウォールステッカー(?)の花びらが散ったり、

テレビの画面に入るとそこはペルーの地だったり、

素敵な演出もたくさんあって、目で見て楽しいシーンがいっぱいでした。

 

そしてなによりパディントンがかわいい!!

紳士っぽく振る舞っているはずなのに、まったく紳士じゃなくて。

人間社会が初めてだからなにもかもに戸惑ったり、トラブルを起こしたり。

帽子とコートを着ているそのビジュアルがとにかく可愛いですね。

それから、テディベア風のスタイルじゃなくて、

毛並みのごわごわ感といいますか、そういうところもなんか好きです。

 

パディントンと出会ってブラウン一家がだんだんと変わっていく様子や、

ブラウン一家にとって、パディントンが大切な存在になっていく様子など、

コミカルに、だけれど丁寧に描かれていて心が温かくなりました。

続編もいつか見たいなぁ。

元気が出ないときに!!

 

映画感想『デイ・アフター・トゥモロー』もしも氷河期が来たら。

 

デイ・アフター・トゥモロー』2004年

 

気象学者のジャックは、温暖化の影響で将来的に地球は氷河期に突入すると予見。

しかし、数百年、数千年後だと思われたその現象はわずか数日で起こり始め。

世界各地の異常気象の中、ジャックやその息子サムのいる地域にも危険が訪れるのだった…。

 

自然の驚異の前には人間はとても無力で、

だけど、人と人の助け合いはとても強い力を持っている。

昔一度見たときはなんとなく見ていたデイ・アフター・トゥモローですが、

改めて見ると、自然災害の怖さがこれでもかと描かれていて身震いしました。

 

地球温暖化の影響で結果的に氷河期に突入していくという物語。

巨大なヒョウに、洪水、いくつも発生する竜巻など、

恐ろしい自然の驚異が世界各地を襲う様子は、目を覆いたくなるほど。

最終的に吹雪になり、街も人も容赦なく凍り付いていく…。

想像しただけで恐ろしい光景です。

 

パニックに陥る人々、その裏でどうにかしようと闘い続ける専門家たち。

離ればなれになる家族。助け合う人々。知識をしぼり生き残ろうとする者たち。

それぞれの闘いが、あちらこちらで描かれていて、

一種のドキュメンタリーを見ているような気分になります。

 

気象学者のジャックと妻、その息子サムの3人は、

様々な事情によって離れた場所にいます。

「必ず迎えにいく」と息子と約束するジャックの決意は固く、

下手すると凍死してしまうという状況の中、遠くNYにいる息子の元に急ぎます。

この親子の絆がとても良かった。

仕事人間で息子との時間をあまり持てていなかった父親ジャックが、

極限の状況で息子に会いにいく。

無謀だし危険だし、本当だったらやめたほうがいいことなのだろうけれど。

それでも大切な家族に会いに行く。

自分が同じ状況だったらどうしているだろう。

明日どころか、数時間、数十分後の未来もわからない中、遠く離れた場所に大事な人がいたら…。

自分も、同じことをするかもしれない。

 

特に印象に残ったシーンがあります。

それは息子サムたちや大勢の市民が避難していた図書館での出来事。

「南に行けば助かるかもしれない」と吹雪の中、外に出ていく人々の群れ。

父からのメッセージにより「外に出たら凍死する」と人々を押さえようとするサム。

だけれど、群衆は「南に行けば」を信じ切って足を止めません。

サムがまだ高校生の子どもだから、聞く耳を持つ人がほぼいなかったのかもしれないですし、

南に向かって外を歩く人々を見て集団意識が働いたのかもしれません。

 

このシーンがとにかく印象に残りました。

大事なときに、自分の人生が左右されるときに、なにを信じればいいのか。

あまりにも難しい瞬間だな、と思ったからです。

私はいろいろと想定外のことが起きるとすぐパニックになってしまうので、

このとき冷静でいられたサムは本当にすごいと思いました。

 

さて。最後まで映画を見て思ったことがありまして。

途中で東京千代田区が出てくるんですが、

なんというか…、解像度が低い!!

最近の映画だとそういうことも少なくなっていると思うんですが、

「あ、あれ?東京千代田区って、こういう感じだっけ…?」と思ってしまって。

いやー、あまりにもファンタジー東京すぎた。

でもそういう部分も味があっていいのかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

映画感想『メタモルフォーゼの縁側』BLで繋がる17歳と75歳の友情。

 

『メタモルフォーゼの縁側』2022年

 

将来の夢もなく冴えない女子高生うららは、

ある日バイト先である本屋でBL漫画を買う老婦人雪と出会う。

同じくBL漫画が好きなうららは、雪と意気投合し、

年が離れた友人として交流することになる…。

 

推しがいる生活って心が潤うんですよね。

わかるわかる!!となりながら映画を見ていました。

BL漫画を通じて交流をすることになった女子高生と老婦人。

『好き』という共通の気持ちがあれば年の差なんて関係ない!!

 

やりたいことも特になく冴えない学校生活を送っていたうらら。

そして、ひとりぼっちで暮らす老婦人の雪さん。

そんなふたりがBL漫画というアイテムを手に入れてメタモルフォーゼ(変化)。

毎日が楽しくなるふたりの様子を見ていると、

こっちまでにこにこ笑顔になってしまいます。

猫背でとぼとぼ歩いていたうららが、軽いステップを踏んで廊下を駆ける後ろ姿。

何度も映されるその姿が生き生きとしていてとてもよかった!!

 

そして雪さん。

雪さんはお年を召しているけれど、とても情熱がある方で。

BL漫画の続きをウキウキ待っていたり、鼻歌をうたいながら料理したり、

絵文字を使ったメールをうららに送ったり、

とにかくチャーミングで可愛いお婆ちゃんなんです。

うららと雪さんの交流を見ているだけで癒されます。

 

BLというジャンルからか、堂々と人前で話ができないうららの姿。

クラスの陽キャ女子が堂々とBL語りをしていることにずるく感じてしまう姿。

人ゴミがすごいから、と一緒に行くのを断念したコミケ

癒しだけではなく、ちょっとした問題もちょこちょこ発生したりします。

 

そんな中、雪さんのひとことで「漫画を描こう」と立ち上がるうらら。

一緒に行けなかったコミケのこともあるし、

なによりうららはお絵描きが好きな子だったのです。

生まれて初めて作る同人誌。苦労と努力。成功と少しの失敗。

見ていてうららがとても輝いているように感じました。

だって、なにかに一生懸命になれるって本当にすごいことだと思うから。

たったひとりで漫画を完成させるってものすごいパワーが必要だと思うから。

 

BL漫画ではないけれど、私自身も同人活動をしていたりします。

グッズを作ったり、漫画を描いたり。とても楽しくて大好きなことです。

だけど、作るたいへんさも知っているから、うららに共感してしまいます。

創作活動に限らず「なにかをする」ってエネルギーが必要ですよね。

なにかに頑張れる人って尊敬します。

 

作中で雪さんが言っていた言葉が頭を離れません。

「才能ないとダメなんてことない」

とてもいい言葉だな、と思います。

私はもういい大人だけれど、それでもチャレンジしたいことがある。

なんだか雪さんの言葉に背中を押されたような気がしました。

 

この映画、とってもいいな、と思う点がありまして。

誰も不幸せにならないんですよね。

幼馴染みの男の子が彼女と別れちゃう、という事件はあるんですが。

なんとなくうららが支えになってくれそう。

というかこの幼馴染みの男の子がめちゃくちゃいい子で!!

いつもうららのことをさりげなく支えてくれるんですよね。良い…。

 

メタモルフォーゼの縁側。

きっと見たらハッピーな気持ちになれると思います。

それから、縁側でカレーが食べたくなるかも。

 

映画感想『エセルとアーネスト ふたりの物語』人生って物語だ。

 

『エセルとアーネスト ふたりの物語』2016年

 

『スノーマン』でおなじみのレイモンド・ブリッグズ

彼の両親エセルとアーネストについて描いた絵本をアニメにした作品。

メイドをしているエセルと、牛乳配達員をしているアーネストは、

いつの日か恋に落ちやがて結婚。ふたりのあいだに産まれたレイモンド。

のどかに暮らす3人だが、次第に戦争の足音が近づいていた…。

 

誰にでも人生があって、それって物語なんだ。

そう改めて思わせてくれた作品です。

どこにでもある普通の家族の歴史にも、もちろん喜びや悲しみがあって。

それが続いてひとつの物語になっている。

いつか私がお婆ちゃんになったときに、自分の人生を振り返ってみたとき。

人にとってはなんてことないことでも、私にとっては大冒険だった。

そんな物語ができていたら、なんだか素敵だな、と思います。

 

さて。こちらの作品はアニメーション映画です。

柔らかく優しいタッチで描かれた人物や背景がとても素敵です。

まるで本当に絵本の中にいるみたいな、そういう気分にさせてくれます。

 

生真面目でほんのちょっと気難しそうな妻エセルと、

いつでも明るくてサプライズが好きな夫アーネスト。

ふたりの何気ない毎日が描かれています。

1928年のロンドンの風景、暮らし、それから時代が進んでいき、

発展していく生活や電化製品。

1時間半という短い時間の中で、まるでタイムワープしたかのように

めまぐるしくその日、そのときが切り取られていきます。

 

とても幸せなエセルとアーネストですが、時代背景には戦争が。

日に日に色濃くなっていく戦争の気配を感じつつも、

それでも楽しく暮らしていくふたり。

たとえ家が壊れてしまっても、ふたりは力強く生きていきます。

 

戦争を乗り越えて、息子レイモンドも成長し、やがて結婚していきます。

そうしておじいちゃん、お婆ちゃんになるふたり。

時間は誰にも止められないし、進んでいくしかない。

いつか必ず別れのときが来る。

そういう当たり前のことが、当たり前のことのように描かれていて。

そこには創作物にあるような大きな事件や出来事はなくて。

それでも、ものすごく胸を打つなにかが存在して、涙が止まらなかったです。

 

世の中には変わっていくものと変わっていかないものがありますよね。

たとえば街の景観や、時代のあれこれが変わっていっても。

大好きな人への気持ちはずっと変わらない。

そういう小さくてとても大切なものを大事にしていきたいな、と思いました。

 

レイモンド・ブリッグズ

スノーマンくらいでしか知らなかったけれど、

次に絵本などで見かけたら、きっとエセルとアーネストのふたりを思い出しそうです。

 

映画感想『K-12』ダークメルヘンなミュージカル。

 

『K-12』2019年

 

不思議な特殊能力を

持っている少女クライベイビー。

不思議で不気味な寄宿学校で、彼女は様々な問題に直面するが、

仲間とともに立ち向かっていくのだった…。

 

開幕1分でその独特な世界観に夢中になりました。

ピンクな世界、ポップな色使い、ゆめかわいい衣装に髪型。

どんな可愛くて素敵な物語が始まるんだろう、と思っていたんですが、

その想像はすぐ覆されることになりました。

不気味な学校を舞台に繰り広げられるダークメルヘンだったのです。

 

いじめや、性差別、思春期の悩みなどが各所に散りばめられていて、

かなり重めなテーマを扱っているなぁ、という感じですが、

終始ミュージカル仕立てで進んでいくので爽快感がありました。

音楽もダンスも衣装も全部いい!!

つい魅入ってしまいますし、何度も見たくなる魅力がありました。

 

クライベイビーがいる学校はとても奇妙で不気味な場所。

とにかく説明が省かれている映画なので

個人的にこう感じた、というだけなのですが、

『校則』が絶対で、子どもである生徒は大人である教師の言うことを聞かなければいけない。

そして生徒のあいだであるヒエラルキーカーストの闇深さ。

こういった『型にはまる』窮屈さからの脱出をしたい。

自分が思うように生きたい。

魔法の力で次々と問題を解決していくクライベイビーたちを見ながら、

そういうメッセージを受け取りました。

タイトルにもある『K-12』というのは簡単に言うと義務教育という意味だそうです。

 

この『K-12』。

クライベイビー役の役者さんの表現力がすごいなぁ。

そして、まるでMVを見ているみたいだな、と感じていたのですが、

アーティストのメラニー・マルティネスさんが主演、脚本、監督をしていると知り、

なるほどな、と納得できました。

とても長いMVを見ているようで、物語を完璧に理解するのは難しい作品だと思いますが、

とにかく音楽、衣装、ダンスがとてもとても素晴らしいので、

ぜひ見たことない方は見てみてほしいです。

元気が出ないときとかにも、活力がもらえそうだな、と思ったり。

繰り返し見たいな、と思える作品でした。

 

女の子はピンクの制服。

男の子はブルーのズボン。

そう決められた学校に通うクライベイビー。

彼女の制服はパープルでした。

自分らしく生きるぞ!!そう聞こえてきた気がします。

映画感想『ゼロ・グラビティ』宇宙でたったひとり。

 

ゼロ・グラビティ』2013年

 

地球から離れた宇宙で船外活動をしていた宇宙飛行士たち。

そんな中、ロシアによって爆破された人工衛星の破片に襲われることに。

仲間のひとりは破片にぶつかり、残された女性宇宙飛行士のライアンと、

ベテラン宇宙飛行士のマットは、果てしない宇宙に放り出されてしまう…。

 

宇宙って怖い。

小学生くらいから漠然と思っていることです。

宇宙の外にはなにがあるのか。宇宙の端っこはどこにあるのか。

テレビで見かけた事象の地平面のエピソードも恐ろしくて。

とにかく宇宙という未知の世界に恐怖を感じるのです。

だけれど、同時にとても惹かれる。

宇宙って怖いけれど魅力もいっぱいあって、なんだか不思議です。

そんなことを思い出しながら、映画を見てみました。

 

なにもない宇宙に放り出されて、生き残っているのはふたりだけ。

そんな絶望的な状況でも決してあきらめずに地球に生還しようとする。

だけれど、その道の途中にはいくつもの困難が待ち構えていて。

足りない酸素、ISS内の火事、燃料切れの宇宙船…。

ライアンがパニックになってしまうのも当然だな、と思いました。

自分だったら泣きわめいて、即酸素0の状態になってしまいそう…。

 

そんな初任務でパニック状態のライアンを支えてくれたのは、

ベテランの宇宙飛行士マットでした。

マットが本当に本当にかっこよくて優しくてよかった…!!

不安にさせないように常に優しく声をかけてくれる姿、かっこよかったなぁ。

そして自分の命を犠牲にしてライアンを助けるマット。

どんどんと遠くへと離れていってしまう中、

それでもライアンを気遣って、最後までアドバイスをして励まし続ける。

マットだって、絶対怖いはずなのに。そのタフさと優しさに涙しました。

 

ずっと「ひとりじゃできない」と思っていたであろうライアン。

つかの間の休息ではまるで胎児のようにまるまっていました。

なんだか私には、ここからライアンは生まれ変わるんだ、と思い、

物語の続きがどんどん気になってきました。

広い宇宙でマットとした「絶対に地球に生還する」という約束。

それを守ろうと、ライアンはひとり宇宙を旅します。

 

ひとりぼっちのライアン。ここに彼がいてくれたら。

ふたりだったら言葉を交わせるし、冗談で気を紛らわすこともできる。

どうしてもくじけそうになったとき、現われてくれた彼。

奇想天外な方法で、ライアンを励ましに来てくれたあのマット。

ほんっとうにどこまでもかっこよすぎる男でした!!

 

1時間30分という短い映画ですが、

これでもかというほど最悪なトラブルが詰まっていて、

目を離す隙がいっさいありませんでした。本当にハラハラした…。

ものすごく真剣に見てしまったのは、やっぱりその映像のすごさもあったと思います。

「どうやって撮影しているの!?」と驚くくらい、本当に無重力感が。

ぐるぐると絶え間なく回る映像にびっくりです。

でも映画館で見ていたら絶対に酔っていた自信があります。

 

さて。

ライアンは無事地球に生還できたと思いたい。

だってあんなにがんばっていたんだから。

だけど、マットの件を見てしまうと、

果たしてこれはライアンにとっての現実なのかな?

とも思ってしまったりします。

 

それから。

こんなに少人数の映画は初めてみたので新鮮でした。

だってほぼライアンひとりの映像だから。映画ってすごいなぁ。

そして。宇宙って美しくも怖いなぁ。

 

 

映画感想『NOPE』ありえないことに直面したら。

 

『NOPE』2022年

 

父と牧場を経営しているOJ。

ある日、空から降ってきた物体によって父の命が奪われてしまい、

現場にいたOJは謎の飛行物体を目にする。

彼は妹とともにこの飛行物体を撮影しようと試みるが、

待っていたのはありえない出来事だった…。

 

序盤に差し込まれている猿の凶悪な暴走事件と、

ありえない角度で立ったまま動かない女の子の靴。

この映像がどう関係しているのかしばらくわからなかったんですが、

映画を最後まで見て、納得できました。(理解できたかは謎ですが)

 

この映画は、2回目を見てもおもしろい作品だな、と感じました。

というのも、物語序盤から張られた伏線が結構多いんですよね。

最初は「?」と思う箇所もあるんですが、

最後まで見ると「おお!!」と思うような仕掛けになっていて、

あれも、これも、全部意味があることだったんだ!とびっくりしました。

 

いついかなるときでも動かない雲の中にいる謎の飛行物体。

OJとその妹、そして家電量販店の店員さん、カメラマン、

最終的にこの4人で飛行物体の撮影に挑むという物語。

「UFOモノかー」となにげなく見ていたんですが、覆されました。

途中まで普通に、宇宙人とかが出てくるタイプの作品だと思っていました。

まんまと引っかかっちゃったなぁー。いやー、おもしろい。

 

人々が『生きている』飛行物体に吸い込まれていく様と、

その内部で行われている恐ろしい光景は、

子どもの頃に見たら絶対トラウマになってしまいそうな恐怖感です…。

飛行物体を目撃した人々が、唖然と空を見上げるシーン。

すぐにパニックになるわけでもなく思わず目を奪われてしまう。

思考停止状態になるというか、なんかそういうリアル感もあって怖かった。

 

馬の調教師であるOJ、かつて調教ができなかった妹。

この2人が『生き物である飛行物体』を相手に奮闘する姿が熱かったです。

特に妹の活躍は、見ていてすっきりするというか、

「よかったね!!」という感情がわいてきました。

 

物語の途中で、かつて暴走した猿が行った惨劇を目撃していた人物が出てきます。

子役時代に遭遇したありえない出来事。

凶暴化した猿と目が合い、子役に手を伸ばしてくる猿。

なぜか彼はグータッチを望まれていると思い猿に手を伸ばします。

たぶん、一瞬猿と通じ合った、と勘違いしてしまったんでしょうね。

この『わかり合えた』という勝手な自己満足、自己解釈によって、

大人になった彼はたいへんな目に遭ってしまう。

 

助からなかった彼と、助かったOJの違いが顕著で、

そういう対比も見ていてとても考えさせられました。

思い込みって怖いよなぁ、と。

 

それにしても生きている飛行物体にはびっくりしました。

普通のUFOモノだと思っていたから…。

終盤のスピード感と白熱感がすごかったなぁ。

 

よく思うことがあって。

たとえば海に入ったとして。その下にはなにがいるかわからないわけですよね。

潜ってみて、目の前にマンボウとかマンタとか

巨大な生物がいたらどれだけ怖いだろう、と。

そんな想像をしてひとり怖くなることがよくあるわけですが。

 

見上げた雲の中に、なにかが潜んでいる。

なんだか海への恐怖と似たものがあってぞわっとしました。

雲の中にあるのはラピュタがいいよー。

 

映画感想『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』あなたはどの漂流話を信じる?

 

ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』2013年

 

インドで動物園を営む家庭で生まれ育った少年パイ。

ある日、カナダに移住するため家族みんなで船旅に出るが、嵐に襲われ船は沈没。

パイは小さなボートで荒れ狂う海に出ることになるが、

そこに乗り合わせたのは獰猛なトラだった…。

 

パイというひとりの少年の生い立ちから始まり、

船の沈没、そしてボートでの漂流、そこからの生還劇が描かれた映画でした。

トラと一緒に仲良く冒険するのかな?

なんて甘い考えで見始めたわけですが、まったくそんなことはなく。

海の真ん中で漂流するという過酷な現実と、驚くべきサバイバル術、

トラとの戦いと、ともに過ごすための方法の模索などなど、

ハートフルどころか、生きるか死ぬかのデスサバイバルが繰り広げられていました。

 

突如たったひとりぼっちになってしまったパイ。

そして偶然乗り合わせた動物園で飼育していたトラ、リチャード・パーカー。

波に任せるままの彼らの旅はとてつもなく過酷です。

パイは、広い海での生還方法を考えるだけじゃなくて、

トラから身を守る術も考えなければいけないという地獄のような環境。

しかし途中で、彼は気づきます。

このトラの存在が自分にとっての心の拠り所だということに。

言葉も通じない、下手をしたら襲われる、そんなトラから与えられる

緊張感や恐怖心が生への希望になっていたのだ、と。

そうしてパイは、そのうちこの一匹のトラを相棒だと思うようになります。

 

世界でたったひとりぼっちになってしまったら、きっと心が壊れちゃう。

言葉がなくても、わかり合えなくても、

そこに誰かがいるのってものすごい安心を感じるんだろうなぁ。

過酷な旅を続ける中で、そういう絆のようなものを感じました。

が、後にそれはパイの一方的なものだとわかるわけですが…。

それを見せられたとき、パイと同じように悲しい気持ちになってしまいました。

 

どうにかこうにか生還を果たすパイなのですが、

ここからのどんでん返しというか、お話がものすごくて、

背筋が凍るような思いになりました。

というのも、この『ライフ・オブ・パイ』という作品、

パイの語る『海を漂流する話』が2パターン存在するのです。

1つは映画で見てきたトラと漂流するお話。

そしてもう1つは、パイが『嘘』だと語る漂流話。

どちらが真実か、その答えは見ている人に委ねられているという作り。

 

私は、トラと過ごした漂流話を信じたいです。

なぜなら、そのほうがロマンがあるから。

 

さて。

この映画ですが、映像がとても美しかったです!

オープニングの動物園の様子、インドの風景、クラゲ大発生の光り輝く夜の海、

ウユニ湖のように美しい凪いだ海。

特に海に出てからは神秘的で美しくフィクションのような光景が広がっています。

 

でももし仮に嘘の漂流話が『真実』だとしたら、

このあまりにも現実離れした美しすぎる海での出来事も

嘘のように見えてきて、やっぱりちょっと怖くなるのでした。

 

映画感想『ルーム』本当は世界ってもっと広いんだ。

 

『ルーム』2016年

 

狭い部屋で暮らす母と子は、ある男によって監禁生活を強いられていた。

なにも知らない5才の息子と生活している母だったが、

ある日、外の世界に行くために脱走を計画するのだった…。

 

狭い部屋の中にはベッドがあって、イスがあって、お風呂があって、テレビがあって。

偽物の植物と、ほんの少しのおもちゃもあって。

外の世界と通じているのは小さな天窓と、鍵のかけられた部屋のドアだけ。

そんな『世界』で毎日を過ごしている母と、その息子ジャック。

そして夜な夜な現われるひとりの男。

5才の誕生日を迎えたジャックに、母は『本当の世界』のことを教えます。

 

7年もの間、男によって監禁されていること。

外の世界にはたくさんの人間がいて、本物の動物がいて植物があること。

『部屋の中』しか知らないジャックは混乱しますが、

そんな中、母はこの部屋を脱出する方法を思いつき実行しようとします。

このときの必死な母の様子は、狂気すら孕んでいて見ていて怖かったですが、

このチャンスを逃したら一生部屋の中なわけですからね…。

 

5才の子どもを使っての脱出は無事に成功し、母と息子は外の世界へと出ていきます。

初めて見る本物の木々、母以外の人間、めまぐるしく変わる風景。

これらがジャック視点で映されるシーンが何度もあって、

彼の心の戸惑いだとか、興奮だとか、そういうものがリアルに伝わってきました。

 

最初は怖がっていた『世界』の情報にも、だんだんと慣れていくジャック。

反対に、失った7年という長い月日に戸惑い、受け入れられない母。

ふたりは同じ『世界』にいるのに、まったく違った景色が見えていて。

狭い部屋にいたときはひとつだった心が、

なんだか遠く離れてしまったような感じがして切なかったです。

 

心身が疲弊している母でしたが、救ってくれたのもまたジャックでした。

母からもらったお守りを真似して、自身も母にお守りを渡す。

ずっと伸ばしていた髪を思い切って切るシーンは、

ジャックの強く、思いやりのある心を感じてぐっときました。

 

5才の頃、自分はいったい何をしていただろう。

思い返してもあまり覚えていないなぁ。

映画の中で、5才の心はとても複雑な動きをしていました。

きっとジャックも大人になったら忘れてしまうこともあるのかな。

 

母にとっては苦く辛い思い出のある『ルーム』。

ジャックにとっては、母と過ごした楽しい思い出のある『ルーム』。

ふたりはあの狭い部屋に訪れて、それぞれがルームにサヨナラを告げます。

それは、過去へのお別れでもあって、

新しい未来に対しての『こんにちは』でもあるような気がしました。

 

部屋からの脱出シーンは、本当に本当にハラハラして、

どうかうまくいきますように!!と映画を見ながらずっと思うほどでした。

それから、ジャックがとてもとても可愛かった。

可愛いなぁ、なんて思いながら見る映画じゃない気がしますが…。