おうちで映画時間。

アマプラなどで見た映画の感想を書いています。

映画感想『TAR』人生のリズムが狂ってしまったら。

 

『TAR』2023年

 

世界的に有名なベルリン・フィルのオーケストラで

始めての女性主席指揮者となったリディア・ター。

成功を収め、名誉と栄光を手にしたターだが、

その裏では様々な陰謀が渦巻き、やがて彼女の人生を大きく変えていくのだった…。

 

なにより驚いたのは、冒頭の20分ほどが、

リディア・ターの講演会?でのインタビューで占めることでした。

え!?と思ったわけですが、この約20分のおかげで、

ターという人物の性格、音楽への向き合い方、彼女がいかに大きな存在であるか、

そういった部分が細かく伝わってきました。

まるで映画の中に存在する『ターのファン』の目線を味わうことができ、

一気に物語への関心が深まった気がします。

 

そして、ようやく物語が動き出すわけですが、私はこう思いました。

「ターってなんて傲慢な人なのだろう」と。

物語の中で、よく言えばターは意思の強い人で。

悪く言えば、自分勝手でエゴにまみれた人に感じました。

だけれど、この『傲慢に感じた』という気持ちは、物語後半になって効いてきます。

同じように彼女を傲慢だと感じている人が物語の中に多数登場するからです。

こういう没入感が、『TAR』という映画を面白くしているような気がしました。

 

名誉も栄光も手にして成功の道を早足で進んでいく指揮者ター。

一見なんの問題もないように見えますが、

ターの周囲には細かな問題がたくさん溢れています。

それは主にター自身の行動によって引き起こされたものばかりで。

ターの過激な言動などが録画された動画の拡散や、

ターのひどい扱いによって自殺をしてしまったかつての友人の問題などをきっかけに、

あっという間に指揮者としての地位が奪われていってしまうのです。

傲慢さゆえの自業自得というのがなんともいえません。

 

『TAR』は、まるで音楽みたいだな、と感じました。

止まることのない音楽。誰かが停止ボタンを押さないと止まらない。

リディア・ターの人生も止まらずに流れ続けていて。

もしどこかで誰かが『ストップ』をかけてくれたら、

また違った人生が待っていたのかな、なんて思いました。

それくらいエゴって人間を狂わすものだと思うので。

 

そんなターですが、弱い部分もあり、心が疲弊していきます。

心の脆さみたいな部分は、ステージに上がる前に手が震えていたり、

物語序盤からうかがえる要素でもありました。

表舞台に立つ人って、きっとものすごいプレッシャーがあるんでしょうね。

 

すべてを失い心が狂ってしまったターですが、それでも希望の光は残されていました。

遠い昔を思い出し、メダルを首にかけ、オーケストラのビデオを鑑賞し涙するター。

なんだか私には、このシーンのターが、

音楽を心から愛するひとりの少女のように見えました。

 

そうしてターは異国の地で再スタートを切ります。

ただのターとして。

人生はいつからでもやり直せる。そんな強さを見た気がします。

 

要望を言うと、もう少しオーケストラのシーンが見たかったかな。

それと、迫力ある音響を映画館で味わいたかったなぁ。

映画感想『パーム・スプリングス』今日という日を無限にループするふたり。

 

『パーム・スプリングス』2021年

 

砂漠のリゾート『パーム・スプリングス』で行われる結婚式に出席するナイルズ。

彼はそこで出会った花嫁の姉サラといい雰囲気になるが、突如ボーガンで襲われてしまう。

混乱するサラを置いてナイルズはとある洞窟へと逃げ込むが、

気づくと再び結婚式当日の朝へと時間が巻き戻っていて…。

 

結婚式が行われる11月9日を永遠に繰り返すタイムループ作品。

同じ日をエンドレスで繰り返しているナイルズですが、

そこにサラも巻き込まれてしまい、ふたりでループしていくことに。

あるひとりがループから抜け出せない時間軸にいて…、

というような作品はたくさん見たことがありますが、

複数人でループを経験していく、というのはなかなか珍しい気もします。

 

ナイルズとサラ以外にもナイルズに恨みがあり襲撃してくるロイ、

そしてほかにもループしているのでは?と思わせるセリフを吐く人物がいたり、

この『パーム・スプリングス』という地域が特別な場所っぽい雰囲気があります。

 

ループしたことを信じられず取り乱すサラ、

数え切れないほどループをしていてもう感覚が狂ってしまっているナイルズ。

このふたりの凸凹コンビが『ループ』という事実に

向き合ったり、逃げたり、乗り越えようとしたり、あきらめたりする模様が、

たった1日の中で行われていきます。

 

1日という設定がとても面白いな、と思いました。

もし1週間あったら、遠い遠い場所まで行けるし、いろんな経験ができる。

だけどたった1日だと、できることも限られていて。

この1日の感覚が人によって様々なところが面白いな、と感じる点でした。

1日だからなにもできないのか。1日だから無限になにかできるのか。

 

無限に繰り返される1日の中で、いいコンビになっていくナイルズとサラ。

どうせ目覚めればまた今日の朝に戻っているんだし、と

はちゃめちゃに過ごすシーンは正直見ていて最高におもしろかったです。

だけど、やっぱりそれって一瞬だけの楽しみなんですよね。

未来に進みたい、と思うサラがループを利用して量子力学を学び始めるシーンが素敵でした。

できないかもしれないけど、やってみる。

映画の序盤では自信なさげで控えめだったサラが、1日を繰り返すことで変わっていく。

時間は進んでいなくても、確実になにかは変化していく。

 

無限の1日の中で。なにも意味なんてない、と思っていた1日の中で。

お互いが好きだと気づいたナイルズとサラ。

もしループしていなかったら、ふたりは他人のままだったんですよね。

11月10日に脱出できたふたりの未来が楽しくありますように。

 

全体的にかなりコメディチックに描かれていたループものでした。

ループものってちょっとこんがらがっちゃうときとかあるんですが、

そういう小難しいことを考えずに軽い感じに見られる作品だな、と思いました。

それから、彩度高めのリゾート風景がエモくてよかったです!!

人様のおうちのプールで勝手に遊んでるのには笑ってしまいましたね。

 

映画感想『ミッドサマー』美しくも恐ろしい村の祭り。

 

『ミッドサマー』2019年

 

突然家族を失ってしまったダニーは、彼氏や仲間とともに

スウェーデンの奥地にあるとある村を訪れることに。

90年に一度9日間に渡って行われるという特別な夏至祭に

参加することになったダニーたちに恐ろしい体験が待ち構えていて…。

 

序盤も序盤からとにかく不気味な雰囲気が漂っています。

情緒不安定なダニー、彼女を疎ましくも思っている彼氏たち、

然の家族の死、不穏なBGM、心が不安になるような画面効果、

そうして辿りついたのは、自然豊かでとても明るい美しい村でした。

 

村が美しければ美しいほど、それに反して不気味さが増してきます。

聞いたこともない村の風習、恐ろしい儀式、差し出される謎の飲み物。

村人の笑顔や、美しい衣装も、一度不気味と感じてしまうと、

なにもかもが怖いものに思えてきてしまうのが不思議ですね。

 

村の風習や暮らしぶりなどが、ものすごく細かく丁寧に描かれているからか、

世界観への没入感がとにかくすごいです。

本当にこの村は存在するのかもしれない。そう思うほどのデティールの細かさに圧倒されます。

 

物語は村の恐ろしい伝統儀式をきっかけに、どんどん不穏な方へと向かいます。

ひとりひとりと消えていく村の外から来た人間たち。

ホラーな雰囲気が漂う中、夏至祭は進んでいきます。

村から出られない。だけれど村の人はとても親切。

ただ、『村の中』と『村の外』の文化の違いがとてつもなく激しいのです。

理解し合えない怖さ、みたいなものも感じました。

 

一見すると意味がわからない、と思われそうなラストですが、

個人的にこの物語は家族を失ったダニーの新たなスタートの物語だと思いました。

4年ものあいだ依存していた彼氏からの解放。

そして村はひとつの家族という考えから、新たな家族を手に入れるダニー。

元の環境ではすぐにパニックを起こし心が消耗していたダニーですが、

思えば村に来てからは比較的落ち着いていたように思えます。

 

途中ダニーは村の女の子たちと踊りを競うという祭りの行事に参加します。

村人と手と手を取り合い、翻弄されつつもダンスを繰り広げ、

次第に彼女と村人は笑い合い、言語は違えど楽しさを分かち合い理解し合います。

 

さらに、とある事件をきっかけに泣きわめき取り乱すシーンがあります。

そのとき村の女の子たちはダニーを囲み、彼女と同じ呼吸のタイミングと、

彼女と同じトーンで一緒に泣いてくれるのですが、

この同調、共鳴という行為によってダニーと村人がより深く繋がったと感じました。

 

明るさと暗さ、美しさとグロさ。

相反する2つの要素が取り入れられているミッドサマーという作品。

このコントラストのインパクトがすごくて、

また見たくなってしまう、そんなクセになる作品でした。

 

花冠に白基調のワンピースという衣装が好みすぎました!

 

映画感想『最強のふたり』最強で最協な相棒。

 

最強のふたり』2012年

 

首から下が全身麻痺の大富豪フィリップは、

ある日、面接に来た黒人男性ドリスを雇うことに。

最初こそ凸凹なふたりだったが、次第にお互いの心は固い絆で結ばれていく…。

 

実話に基づいたお話とのことで、びっくりしました。

おもしろい!!と言っていいのかな?本当におもしろかったです。

環境の違うふたりが、最初は戸惑い、だんだんと距離が近づいていく、

そんな感じのハートフルなストーリー。

 

少々荒っぽくてノリのいいドリス。

そして物静かで教養のある大人なフィリップ。

対照的なふたりですが、それぞれの『世界』になかったなにかを享受して、

(例えば、ドリスにとっての絵画やクラシックだったり、

フィリップにとってのタバコや、障害者扱いしないドリスの態度だったり)

新しい価値観に目覚めて生き生きとしていく様子は見ていて感動しました。

 

あと一歩踏み出せないフィリップの人生を、ドリスは強引に変えていきます。

文通相手に電話で連絡を取ってみたり、車椅子で爆走してみたり、

介護用の車ではなく、乗用車の助手席に乗せてみたり。

フィリップの吹き出さないようにこらえた笑顔がとても印象に残りました。

ドリスといて、本当に楽しんだなぁ、という気持ちが伝わってくるようで。

 

個人的に、ドリスのさらっとした優しさが素敵だな、と思いました。

人のために本気で本当の心を曝け出すのって難しいことだと思うし、

こうしたい、ああしたい、これは嫌だ、と口に出せるのもすごい。

行き当たりばったりに見えて、しっかりとしているドリス。

そういう人間性にフィリップは惹かれたのかな。

 

それぞれが持っているもの、持っていないもの。

それらを分け合って、いつの間にか相棒のようになっていくふたり。

心の底から信頼し合える相棒って素敵だなあ、と思いました。

 

リメイク版もあるようなので、いつか見てみようかなぁ。

 

 

映画感想『シックス・センス』今度こそ救いたい、ただ一心で。

 

シックス・センス』1999年

 

精神科医の男性マルコムは、かつて救えなかった子どもに撃たれてしまう。

その後、マルコムはひとりの訳ありな少年コールと出会う。

コールには、死者の姿が見えるという特別な力があった。

その力に悩むコールを救うため、マルコムは立ち上がるのだが…。

 

とても面白い作品だと思いました。

というのも、前半と後半で『幽霊に対しての接し方』が変わる

二部構成のような作りになっていたからです。

そして、ラストの展開は少し読める部分もありましたが、

伏線などの回収が見事で「おお!!」とうなってしまうほどでした。

悲しいけれど、とても優しくて、美しい物語ですね。

 

今目の前にいる少年コールを救うことで、

かつて自身が救えなかった子どものことも救えるはずだ、と考えるマルコム。

とても優しい主人公だと思いました。

最初はマルコムを信用しなかったコールも、一緒の時間を過ごすうちに、

だんだんと心を開くようになり『幽霊が見える』ことを打ち明けます。

 

コールにとって、その悩みを打ち明けることはとても大きなことで、

マルコムにそっと打ち明けるこのシーンはとても印象に残りました。

コール役の役者さんのお芝居が本当に胸に来るんです。

 

マルコムはコールの言葉を最初は真摯には受け止めません。

というのも精神科医なので、幽霊の存在を信じられないわけです。

だけれど、かつて救えなかった子どもの音声記録をきっかけに考えが変わります。

ここから始まる、物語第2部が本当に面白い。

 

怖がっていた幽霊に対して、向き合い始めるコール。

それによって微妙だった母との関係性も良好になり、

コール自身の生活もどんどん上向きになっていく。

 

マルコムによって救われた子どもコール。

彼らの別れのシーンでは涙が止まりませんでした。

嘘でもいいからまた明日って言って。

ラストまで見ると、このコールの言葉がさらに泣けてきます。

コールは最初からすべてを知っていて。

マルコムは最後の瞬間までなにも知らない。

残酷で、だけれどとてもあたたかい関係性だと思います。

 

物事は見方を変えたら、新しい道が見えてくる。

そんなふうに思いました。

 

見る前までは怖い映画なんだと思っていたんですが、

全然印象が違って、本当にびっくりしました。

こんなに心温まる映画だったとは…!!

 

映画感想『茄子 アンダルシアの夏』自転車で走り抜ける町々。

 

『茄子 アンダルシアの夏』2003年

 

ロードレースの選手をしているぺぺは、

世界三大自転車レースのひとつ『ブエルタ・ア・エスパーニャ』を走る。

街から街へ何日もかけて移動していくレースの最中、この日はぺぺの地元が舞台だった。

様々な想いや困難の中、ぺぺは優勝を目指してペダルを回すのだった…。

 

弱虫ペダルの影響で見始めたロードレースというスポーツ。

この自転車レースの魅力は語り始めたらキリがありません。

1年通してたくさんのレースがある中、特に注目されるのはグランツールと呼ばれる三大レース

春先にイタリアで行われる『ジロ・デ・イタリア』。

夏にフランスで行われる『ツール・ド・フランス』。

そして秋頃スペインで行われる『ブエルタ・ア・エスパーニャ』です。

ツール・ド・フランスは聞いたことある方も多いのではないでしょうか?

21日間に渡り、街から街へ、山を越え、海沿いを走り、優勝者を決めるレースです。

 

今作の主人公ぺぺが走るのはその三大レースのひとつ『ブエルタ・ア・エスパーニャ』。

21日間の総合タイムが良い選手に贈られる優勝と、もうひとつ別の勝利があります。

それは、その日1日ごとのステージ優勝者です。

ぺぺはそのステージ優勝を目指し走ります。

 

ロードレースはちょっとよくわからないな、という方も、

この映画は純粋にぺぺを応援したくなる構成になっていると思います。

スポンサーに嫌われ結果を出さないとチームをクビになってしまうかもしれない状況。

そして地元を走るということで、家族や仲間達が大勢応援してくれていること。

ロードレースではなかなか難しい『逃げ』に乗って勝利を目指すということ。

見ているうちに自然と「ぺぺ、がんばれ」という気持ちがわいてきます。

 

さて。ロードレースには『集団』と『逃げ』というものが存在します。

ぺぺはその逃げに乗ります。逃げ。集団から飛び出す選手たちのことです。

その日の勝利を目指したい選手などが主に逃げに入ります。

だけれど、逃げというのは少人数で、ぺぺの逃げもたった10人でした。

おまけにステージは街の中にゴールする平坦ステージ。

後ろから迫ってくる集団のスピードは速く、

街に入る頃にはぺぺの逃げも捕まってしまいそうになります。

このゴール前の攻防の描かれ方や、作画の感じがものすごい迫力で見入ってしまいました。

 

この映画は、ロードレースの内容だけじゃなく、

少ない描写でぺぺの過去や想いなどもしっかりと描かれていて、

45分とは思えないほど密度が高い内容になっています。

そしてなにより雰囲気がいい。

静かな空気感の中、激闘を繰り広げるレース、そして熱い応援。

静と動のコントラストが美しいな、と思います。

 

ロードレースファンから見ると、

自転車レースの描写が本当に本当に丁寧で感動します。

タイム差のこと、逃げのこと、飛び交うボトル、チームカーとのやりとり、

沿道での「ベンガ」という応援、ブエルタの風景、

入り組んだ街を利用した戦略、落車によるトラブル、悪魔おじさんの存在。

愛のある作品だな、と思います。

 

またブエルタの季節がやってきたら見たくなるんだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

映画感想『ムーンライト』孤独を照らしてくれる月明かり。

 

『ムーンライト』2017年

 

麻薬中毒の母を持ち、学校ではいじめられる孤独な少年シャロン

そんな彼を気にかけてくれる麻薬ディーラーの男と、ひとりの同級生。

少年から青年へと成長していくシャロンの物語。

 

フィクションのようなドキュメンタリーのような、そんな不思議な映画でした。

孤独な『シャロン』の生活を少年時代から青年時代まで追いかけていく物語。

シャロンはとても無口で、なにを考えているのかよくわからない。

でも無口だからこそ、こうなのかな、ああなのかな、と思考の余地ができて、

物語の主人公であるシャロンを理解しようという心が生まれた気がします。

淡々とゆったり進む感じもよかったです。より一層物語にのめり込めるので。

 

映画は三部構成になっていて。

『リトル』『シャロン』『ブラック』という章タイトルがつけられています。

この3つはどれもシャロンのことを表す言葉です。

本名はシャロン。あだ名はリトル。

そしていつしか恋心を抱くようになる同級生の少年につけられたあだ名が『ブラック』です。

幼年期、少年期、青年期のシャロンを見ていくストーリーですが、

孤独の中にも希望の光があるような構成になっています。

 

タイトルの『ムーンライト』。直訳すると月の光。

暗い道の中にもいつでも月明かりがシャロンを照らしているような気がしました。

麻薬中毒の母、そしていじめてくるクラスメイト。

そんな闇の中で出会った、心優しい麻薬ディーラーの男とその彼女。

そしてシャロンを気にかけてくれる同級生の少年ケヴィン。

彼らがシャロンにとっての月明かりであり、道しるべなのかな、と感じました。

 

この作品はシャロン以外の人生を見ることもできて、そこがまたおもしろいです。

麻薬ディーラーをしていたことで、シャロンに失望されてしまうフアン。

麻薬中毒から抜けだし新たなスタートを切っても、過去を後悔してばかりの母。

シャロンの唯一の友人であり、一度だけシャロンとキスなどをしたことがあるケヴィン。

彼らの人生の中にも、後悔などあり、

映画を通じて『過去には二度と戻れない』ということを改めて思い知らされました。

 

大人になって密かに恋心を抱いているケヴィンと再開したシャロン

ケヴィンは孤独なシャロンの心を受けとめてくれます。

 

長い人生で、たったひとりでもこういう月明かりのような存在に出会えたら。

きっと幸せなのだ、とそう思いました。

 

映画感想『RUN』歪みすぎた母の異常な愛。

 

『RUN』2021年

 

生まれつき体が弱く、車イス生活をしている母親とふたり暮らしのクロエ。

そんな彼女は大学受験をし自立しようと日々奮闘。

母も応援してくれているはずだったが、ある日謎の薬を飲まされるようになり…。

 

最初は、よくできた娘と、献身的だけどちょっと変わったお母さん、

という雰囲気だったのに、途中から一気にホラーに変わっていく展開。

どうするんだろう、どうなってしまうんだろう!!

という恐怖に終始震えながら見ていました。

 

ある日突然増えた新しい薬。しかもその薬には不審な点が多い。

数々の苦難を乗り越えやっと知ることができた薬の正体は、

人間が飲んだら足が麻痺するという恐ろしい薬で…。

優しかったはずの母親が、一気に恐怖の対象になる展開はまさにサイコホラー。

車椅子生活で自由に行動できないクロエは、

誰かに助けを呼ぶことすらままならない状態。

家に閉じ込められ、車椅子昇降機の配線を切られ、

『母』という存在が、知らない誰かになっていく恐怖が、

クロエの表情や呼吸、必死さから伝わってきます。

クロエの役者さんの鬼気迫るお芝居が本当にすごいです。

 

そして物語終盤に知ることになる衝撃的な事実。

母にとってのクロエという存在の大きさ。子どもへの異常な執着。

毒親というひとことでは片付けられない歪んだ愛。

いろいろなものを混ぜて煮込んだような、そんな恐ろしさに震えました。

 

RUNに出てくるダイアンという母親ほどではないにせよ、

子どもに過干渉だったり、子どもは自分のものだ、という親っていますよね。

まさに私の母親がかなりの過干渉だったわけなんですが…。

なんだかちょっと苦い過去を思い出しました。

 

ラストのラスト。成長したクロエのとあるシーン。

彼女ははたして本当に幸せになれたのかな。

そう考えてしまうような、難しいラストになっていたな、と思いました。

 

 

映画感想『テーラー 人生の仕立て屋』バイクで駆けつけます、スーツ姿で。

 

テーラー 人生の仕立て屋』2021年

 

高級スーツの仕立て屋を経営しているニコスとその父。

しかし時代の変化からか経営不振になりついには店は差し押さえのピンチに。

一線を退いた父の代わりに店をなんとかしようと立ち上がるニコスは、手作りの屋台で街に繰り出し、

ひょんなことからウェディングドレスを仕立てることになったのだった…。

 

一風変わった仕立て屋さんのストーリー。

軽快なリズムから始まった映画は、所謂サクセスストーリーになるのかな?

と想像したんですが、これがなかなか紆余曲折な感じで。

「え!?そうなるんだ!?」と個人的に驚くような展開が待っていました。

 

まったくお客さんの来ない高級スーツの仕立て屋さん。

ニコスはゴミ捨て場から使えそうなパーツを持ってきて手作りの屋台を仕立てます。

ありったけの生地を持って露店販売するも、成果は上がらず。

しかし、ニコスの元にひょんなことからウェディングドレスの仕立ての話が舞い込んできて、

初めてのドレス作りに挑戦していきます。

父が退き最初はひとりだったお店も、お向かいの奥さんオルガや、

その娘の協力もあって、だんだんと騒がしくなっていき。

 

静かだったお店が賑やかになっていったり、

スーツしかなかった店内に華やかなウェディングドレスが並ぶようになったり、

スーツを着用しバイクをかっ飛ばすニコスの姿だったり、

明るい雰囲気や、人生が上向きになっていく様子にわくわくしました。

 

ただ、ニコスは仕立て上手なんですが、どうにも商売が下手で…。

ついつい押されてしまい安い値段で注文を受けてしまいがち。

世渡り上手なほうではなさそうです。でも人がいい!!

そしてなんだか細かいことが気になる性格のようで。

ニコスという主人公もとても魅力的で見ていて楽しい映画でした。

 

でも楽しいだけじゃなくて、ちょっと不穏な部分もあります。

お向かいの奥さんオルガと親しくなったことによって産まれる不和。

やっと上向きになった人生という生地に落とされた一滴のシミのような。

人生楽しいだけじゃないんだな、という苦みがエッセンスとして加えられていて、

それがまた、この映画に深みを与えているように思えました。

 

それでもニコスは前を向いて。

今日もどこかの街のどこかの道で、

ウェディングドレスを仕立てているんだろうなぁ。

 

2月に見た25本の中から個人的オススメ映画5作品。

今日で2月も終わりということなので、

今月見た映画の中から個人的に特に好きだったものをピックアップしていこうと思います。

 

■2024年2月に見た映画一覧

 

ティム・バートンのコープスブライド

『夏へのトンネル、さよならの出口』

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』

『M3GAN』

『星の子』

ゆれる人魚

グレムリン

『LAMB』

僕のワンダフル・ライフ

『ア・ゴースト・ストーリー』

『ファブリックの女王』

籠の中の乙女

『グランド・ブタペスト・ホテル』

ムーミン谷の彗星』

『あと1センチの恋』

『映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団

『アナザーラウンド』

『元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件』

『幸せなひとりぼっち』

『エヴォリューション』

『RUN』

『ムーンライト』

テーラー 人生の仕立て屋』

『茄子 アンダルシアの夏

シックス・センス

 

の計25本でした。

 

■個人的に好きだった5作品

 

①『ゆれる人魚

 

natumeoto.hatenablog.com

 

ナイトクラブの人気者になった人魚の姉妹のお話。

美しい人魚の姉妹の姿と、華やかな夜のクラブと音楽。

そしてたびたび登場するミュージカルシーンに惹かれます。

ダークな雰囲気と悲しいストーリー展開がとても好みでした。

忘れた頃にまた見たいなぁ。

 

②『LAMB』

 

natumeoto.hatenablog.com

 

広大な自然と、とことん静かな雰囲気。映画館で味わいたかったです。

羊の頭をしたアダちゃんがとにかく可愛い。そして人間は恐ろしい。

母親の恐ろしいエゴに震えました。

動物が好きなので、動物が出てくる映画は好みかもしれない。

 

③『僕のワンダフル・ライフ

 

natumeoto.hatenablog.com

 

とにかく泣いて、とにかく笑って、感情を揺さぶられる作品でした。

当時映画館で見ようとしていたんですが、やめておいてよかった。

だって、一生鼻かんでることになっていただろうから。

犬と人との絆の物語。

転生モノアニメって流行った時期がありますが、まさかの犬も転生する時代です。

オムニバスのような構成で、やがてひとつに繋がっていく。

もう一度見たら、また号泣しちゃうんだろうなぁ。

 

④『籠の中の乙女

 

natumeoto.hatenablog.com

 

外の世界に出してもらえない子どもたちのお話。

極限のディストピア。だけど子どもたちはそれに気づかない。

映画全体を包み込む異様な空気感にぞわぞわとします。

静かに狂っている、そういう空気感。とても好みです。

 

⑤『シックス・センス

 

今日見た映画です。有名だけれど見たことがなかった作品。

タイトルだけしか知らなかったので普通に怖いホラーだと思っていたんですが、

全然想像と違っていて、びっくりしました。

優しくて、だけどちょっと悲しくて、それでいてあたたかい。

最初はホラーなのに、だんだん変わっていく『ゴースト』という存在。

二部構成みたいな感じでおもしろく見れました。

詳しい感想はまた後日ブログに書こうと思います。