おうちで映画時間。

アマプラなどで見た映画の感想を書いています。

映画感想『籠の中の乙女』閉鎖空間の狂った子どもたち。

 

籠の中の乙女』2012年

 

『外の世界』は汚らわしく危険だ、と教え込まれ、

家の敷地から一歩も出ることを許されず、

嘘の教育をされ育てられた三人の名前もつけられていない子どもたち。

なんの疑問も持たないはずの子どもたちは、それでも少しずつ変わっていって…。

 

閉鎖された空間でただ『日常』を送る家族。

父親は車に乗り会社へ行き、母はただ静かに家に引きこもる。

三人の子どもは嘘の教育を施され、疑問を感じないまま楽しく遊ぶ。

そんな狂った小さな社会を見ていく映画です。

 

序盤はまだ「ちょっとおかしいな?」と首を傾げる程度で済みますが、

中盤以降は精神的ホラーな展開が続きます。

子どもたちの年齢ははっきりとは明かされていませんが、おそらくは高校生以上。

そんな男女が無邪気に飛行機の玩具で遊んだり、

麻酔をして先に目が覚めたほうが勝ち、という危険なゲームをしたり、

どこか歪でぞわぞわとする日常を送っています。

 

外の世界は汚い、危険だと教えるために自作自演をする父親の狂気。

子どもたちは従順で、この閉鎖された世界が普通だと思い込んでいる様子。

だけれど物語はだんだんとゆっくりとしたスピードで方向転換していき、

『ブルース』と自分で自分に名前をつけたひとりの子どもが

この『平和な世界』から抜け出すことを試みます。

 

永久歯である『犬歯』。

それが抜ければ車に乗って外に出られる、と教え込まれた子どもたち。

もちろん嘘です。犬歯は永久歯なので自然に抜けることはありません。

ブルースがその犬歯を自らへし折るシーンは、自我の目覚めと解放を感じさせます。

自分で名前をつけたその瞬間から、彼女はもう子どものうちのひとりじゃなかったのかな。

 

物語のラストカットはとても印象的で、

後味が悪いような、すっきりしたような、なんともいえない気持ちになりました。

それから、この世界の『外の世界』がどうなっているのか、

まったくわからないというのも不気味に感じます。

父親の働く人気のない職場。外部の人間の少なさ。

「もしかして本当に外の世界って危険なのでは?」

そう思わせるポストアポカリプス感のある世界観も不思議さに拍車をかけている気がします。

 

この映画に出てくる家族は狂っているように見えます。

だけれどそう見えるのは『外から見たわたしたち』で、

内部にいる彼ら彼女らはそれが日常なんですよね。

観測者がいるから、おかしく見える。

そういう不思議な作りの映画だな、と思いました。