おうちで映画時間。

アマプラなどで見た映画の感想を書いています。

映画感想『TAR』人生のリズムが狂ってしまったら。

 

『TAR』2023年

 

世界的に有名なベルリン・フィルのオーケストラで

始めての女性主席指揮者となったリディア・ター。

成功を収め、名誉と栄光を手にしたターだが、

その裏では様々な陰謀が渦巻き、やがて彼女の人生を大きく変えていくのだった…。

 

なにより驚いたのは、冒頭の20分ほどが、

リディア・ターの講演会?でのインタビューで占めることでした。

え!?と思ったわけですが、この約20分のおかげで、

ターという人物の性格、音楽への向き合い方、彼女がいかに大きな存在であるか、

そういった部分が細かく伝わってきました。

まるで映画の中に存在する『ターのファン』の目線を味わうことができ、

一気に物語への関心が深まった気がします。

 

そして、ようやく物語が動き出すわけですが、私はこう思いました。

「ターってなんて傲慢な人なのだろう」と。

物語の中で、よく言えばターは意思の強い人で。

悪く言えば、自分勝手でエゴにまみれた人に感じました。

だけれど、この『傲慢に感じた』という気持ちは、物語後半になって効いてきます。

同じように彼女を傲慢だと感じている人が物語の中に多数登場するからです。

こういう没入感が、『TAR』という映画を面白くしているような気がしました。

 

名誉も栄光も手にして成功の道を早足で進んでいく指揮者ター。

一見なんの問題もないように見えますが、

ターの周囲には細かな問題がたくさん溢れています。

それは主にター自身の行動によって引き起こされたものばかりで。

ターの過激な言動などが録画された動画の拡散や、

ターのひどい扱いによって自殺をしてしまったかつての友人の問題などをきっかけに、

あっという間に指揮者としての地位が奪われていってしまうのです。

傲慢さゆえの自業自得というのがなんともいえません。

 

『TAR』は、まるで音楽みたいだな、と感じました。

止まることのない音楽。誰かが停止ボタンを押さないと止まらない。

リディア・ターの人生も止まらずに流れ続けていて。

もしどこかで誰かが『ストップ』をかけてくれたら、

また違った人生が待っていたのかな、なんて思いました。

それくらいエゴって人間を狂わすものだと思うので。

 

そんなターですが、弱い部分もあり、心が疲弊していきます。

心の脆さみたいな部分は、ステージに上がる前に手が震えていたり、

物語序盤からうかがえる要素でもありました。

表舞台に立つ人って、きっとものすごいプレッシャーがあるんでしょうね。

 

すべてを失い心が狂ってしまったターですが、それでも希望の光は残されていました。

遠い昔を思い出し、メダルを首にかけ、オーケストラのビデオを鑑賞し涙するター。

なんだか私には、このシーンのターが、

音楽を心から愛するひとりの少女のように見えました。

 

そうしてターは異国の地で再スタートを切ります。

ただのターとして。

人生はいつからでもやり直せる。そんな強さを見た気がします。

 

要望を言うと、もう少しオーケストラのシーンが見たかったかな。

それと、迫力ある音響を映画館で味わいたかったなぁ。